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MAJESTOXIC   2・2 中庭の日差し

 アウグスタはスピネ・エンデとシュバルツァガルの南にあった。暖かく、冬でも雪はちらつく程度で花々が一年中咲き誇っている。素朴ながら美しい煉瓦の街並みが広がり、そこから少し離れた、橋を隔てた場所にアウグスタ城がある。三国の中でも随一の学術都市が有名である。首都にはアカデミーの校舎が並び、街にはたくさんの学生の姿があった。大きな港もあり、色とりどりの食材や日用品の売られている市場は活気に溢れていた。

 噴水の美しい中庭があるアウグスタ城。その会議室には災難を打破すべく三国の要人が集っていた。国王や側近が円卓を囲みそれぞれ意見を述べている。空気は重苦しいものだった。
「しかし証拠は?悲運な偶然に偶然が重なっただけやもしれん。あまりに確証がなさすぎる」
「ミケーレ戦争以前の状況を思い出してください、あの時と被害はほぼ一致します!また何者かの企てか……とにかく、魔族がすべての根源だということは一目瞭然ではありませんか」
「すべて、というのはどうも……な。もちろん魔族の関わった事柄もあるやもしれんが」
 アウグスタの国王、ファビオ=バーソロミュは難しい顔をした。同じ土地に生きる一人の人間として、家臣の言う事も分からなくもないのだ。魔族の仕業。そう考えるのが一番普遍的で簡潔な方法だ。
「正規の討伐隊を組むべきでは?被害がこれ以上深刻にならないように先手を打たなくては」
 別の家臣が立ち上がった。銀縁の片眼鏡をかけ、歳は30代後半といったところだ。この意見に頷く者も多数いた。ひそひそと囁きが聞こえてくる。 それまで黙って話の流れを見ていたアルザが口を開いた。
「討伐隊?標的は何なの、悪事を働いた者のみ?それとも魔族を片っ端から?そういう考えなら僕は降りるけど」
 一斉にアルザに視線が集まった。
「……お言葉ですが、アルザ王。いつ何時魔族が我々に歯向かうとも分からないのですよ!事が起こってからでは遅すぎます。魔族は危険です……貴方もよくご存知のはず」
 アルザはその男をギロリと睨んだ。戦争中、魔女フェリシティに両親の命が奪われた事を言っているのだろう。だがそれを魔族討伐の理由にされたくはなかった。フェリシティが憎くないと言えば嘘になる。しかしそれはそれだ。彼女が強大な魔力で魔族を操っていたときにも、自我を保ち人間に味方した魔族だっている。彼らも一括りにして危険視する、愚かで浅はかな考えが嫌いだった。
「危険かどうかはその時がくるまで分からねぇな。害をなした奴は処罰する。怪しい奴は警戒する。何もしねえ奴はそのまま放っとく。そういうことなら俺は同意するが」
 横からダリュが口を挟んだ。話が分かるね、と言いたげな顔でアルザがダリュを見た。片眼鏡の男が微かに顔を曇らせた。
「そうだな、しばらくはそうしておこう。要所の警備を重視。巡回路をより細かく、夜警の数も増やしたほうがいい。何にせよ今は手探りの状況だからな。両国とも、何かあれば引き続き情報の提供を頼む。ではこれで解散としよう」
 会議はファビオの言葉をもって終了した。


 アルザは用意された部屋へ戻るなりベッドへ飛び乗った。うつ伏せになるとスピネ・エンデの自室とは違う、暖かな光のにおいがする。一緒に会議に出席していたバッチェス、中隊長のトビトも続いて入ってきた。この城では三人で一つの大きな部屋に泊まるのだ。アルザが枕に顔を埋めて唸っている。トビトは苦笑した。
「疲れますね、ああいう会議は」
「まったくだな。あの片眼鏡の、ファビオの二つ横に座ってた奴!誰だあいつ!」
 バッチェスが帽子をとってテーブルに置いた。
「彼は……確か、バティスタ=オーギューでしょう?アウグスタの宮宰の一人です。魔族は敵でしかない男ですからね、魔と名のつくもの全てをひどく嫌っているようです。魔法、魔術……アルザ王、彼の前では決して使わないように。特に魔法はダメです」
「そう言われるとやりたくなるんだけどな。廊下で通りすがりに眼鏡割ってやろうか」
「ちょっと、絶対にやらないでくださいね!ただでさえ彼はスピネ・エンデにいい印象を持ってないんですから!!恨まれでもしたら先々面倒なことになるじゃないですか!」
「冗談だよ、冗談」
 喉の奥で笑っているアルザに不安を覚えつつ、バッチェスは厚いローブを脱いで丁寧に畳んだ。部屋の中でぐらい軽装でいたい。
 ノックの音がしてドアが開いた。赤毛の少年が顔を覗かせた。
「ほら、アルザ様!ユト様がお越しになられましたよ」
「ごめん、取り込み中だったか?」
 ユトは部屋を見回すとアルザの伏しているベッドの横に来た。彼はアルザの一つ下、16歳だ。今はシャツにズボン、薄手のマントを羽織ったラフな格好をしている。彼はファビオ王の息子でありアウグスタの王子だ。アルザとは幼なじみで、暇があればスピネ・エンデに出かけ二人で他愛もない話をしている。アルザと比べてどうにも純情でシャイな性格のため、よくからかわれていたが。今日はどことなく元気がない。
 アルザはぱっと顔を上げると楽しそうな笑みを浮かべた。
「そうだった、経過を聞いておかないとな。エレンとはどうなった?」
「……イーラ。誰だよエレンって」
 アルザは寝転がったまま片手を上げた。ユトはその手を引っ張ってアルザを起こした。
「イーラ?誰ですかそれ?」
 トビトが首を傾げた。ユトは焦って口ごもった。目が泳いでいる。
「い、いや、何でもな……ほ、ほらアルザ!ちょっと散歩でも行こう!ほら早く!」
 ユトはあたふたしながらアルザを引っ張って廊下へ出た。部屋に残されたトビトはバッチェスを振り返る。
「イーラって誰なんです?」
「花屋の若い娘ですよ。十二月中旬の情報からするとどうやらユト様がアプローチなさっている様子……青春ですねえ」
「ユト様の!そうですか、実るといいですね……」
 トビトは二人の出て行った扉を見つめる。内心はバッチェスの台詞に驚いていたが。“バッチェスさん、青春って言葉が似合わないですね”と心の中だけで呟いた。気分を害されたら後が怖い。


 部屋を出た二人は中庭沿いの廊下を歩いていた。片側は中庭に面し、ゆるやかな階段を下ればそこから直接庭に下りることができる。白い支柱越しに美しい庭が見える。噴水に噴き上げられた水がきらきらと日光を受けて輝いている。
「それでどうなんだ、この前言ってたプレゼントはエレンに渡したのか?」
「イーラ!イーラだってば。何回言ったら覚えてくれるんだよ……」
 アルザはわざとにやっていた。ユトは柱に寄りかかると少しだけ目を伏せた。アルザはその下にある階段に腰掛けた。スピネ・エンデのように凍えるような風はない。降り注ぐ日差しが心地よかった。
「……イーラ、結婚するらしいんだ」
 いきなり失恋を告げられ、あー……、とアルザは言葉を濁した。
「……誰と?」
「近くに住んでる男だって。名前は知らないけど」
 後ろを振り返らずとも、ユトの落胆ぶりが窺える。どういう言葉をかけるべきか。アルザは生まれてこのかた失恋などしたことがなかっただけに、気の利いた台詞が浮かんでこなかった。
「あー……ユト、そう落ち込むな」
「無理だよ……」
 まあ、そういうものか。このナイーブな友人を慰めるにはどうすればいいか。
 アルザが考えてこんでいると目の前に突然白い光が現れた。初めはぼんやり漂っていたのが、次第に明るく大きくなりアルザを光の壁で包み込んだ。
「え……!?」
「うわっ、何だこれ!?」
 目を凝らしてユトのほうを見ると、彼も同じ状態になっているらしかった。 光はさらに強さを増し、二人はあまりの眩しさに目を覆った。



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2007.1.4 執筆

ユト登場。ピュアーな青少年、かわいいやつです。出てきてすぐ失恋!うう甘酸っぺー!(笑)書いてる途中、自分でニヤニヤが止まりませんでしたあの場面!イーラさんは素朴な心優しい女の子って感じ。でしゃばらないけど元気っ子で。片眼鏡の人・バティスタ=オーギューのデザインもいつか考えてみたいな!固そうで笑わなそうな、一見するといけすかん感じのビジュアルで!(どんな)
それにしても前回の更新から一ヶ月ちょい経ってますね!orzがんばろ・・・!

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