→ MAJESTOXIC TOP

MAJESTOXIC   3・3 結団の杯

「ハルヴィエ様、あまり足を上げないように」
「もう!これ歩き辛いのよ!」
「ちょっと、お茶は?まだ?」
「アルザ様、先に着替えを済ませてから……」
「きつい!きついってば!途中で破けたらどうするの!?」
「慎ましやかに動いてくだされば問題ありません!」
 アルザとハルヴィエを着替えさせるのは大仕事だった。せっかく仕立てた衣装も着るのを拒否し、ちょっと目を離せばいなくなる。それでもなんとか着替えを終わらせ、メイドたちは満足げに二人を眺めた。
「本当にお似合いで。やはり美しい衣装は美しい人が着てこそ真の価値を発揮するものですわね」
「ええ、本当に。私たちも飾り甲斐があります」
 アルザは鏡の前でくるりと回ってみた。白を基調にした上下の服に青いビロードのマント。頭には白金の王冠が載せられている。ハルヴィエは金の髪を結い上げ、レースの飾りがたっぷりついた薄黄色のドレスを身に纏っていた。部屋に入ってきたロシュが感嘆のため息を漏らした。
「さあ、そろそろ時間です。ファビオ王もダリュ王も既にいらっしゃっていますよ」

 アルザたちはロシュに続いて会議室へ向かった。今日はスピネ・エンデでの会議だ。三国と魔族の代表が初めて顔を合わせる場だった。魔族代表はオーレリーと……メアリは来るのだろうか。彼女は魔族たちの中でどのような立場にいるのかが分からないから、何とも言えないが。アルザは歩きながら廊下の窓を見た。時刻は昼過ぎだが薄暗く、雪もちらついている。まずは会議が円滑に進むことを願おう。



 赤茶色の扉を開け、中に入ったアルザが顔をしかめた。
――何でこんな険悪な……。
 アウグスタ国からはファビオ王、ユト王子、宮宰のバティスタ=オーギュー、その他に二人の男。シュバルツァガル国からはダリュ王、その護衛のグレイ=ノエル、グレミア前国王、ジル王子。スピネ・エンデ国からは魔法魔術の権威であるスティフ=エヴァンジェリン、軍隊長のセレ=エヴァンジェリン、大臣のバッチェス=ノルベルト。魔族代表はオーレリー、狼男、リスのストラディヴァリ=ポルケウス、そして黒ずくめの男。それぞれの国や種族の代表者たちが長いテーブルを囲んで座っていた。だが一人として喋る者はいない。会議が始まるのを静かに待っていたなどという安穏な静けさでなく、今にも誰かが剣を抜きそうな雰囲気だ。使用人たちも居心地悪そうにしている。ダリュはハルヴィエの姿を見て目を瞬かせた。その弟のジルが兄とハルヴィエを交互に見て口笛を吹くまねをした。
「これで皆揃ったね。それじゃ、本題に入ろうか」
 スティフが場違いなほどにこやかに言い、アルザたちも席についた。オーレリーが咳払いをして立ち上がった。彼女もそれなりにめかしこんで、光沢のあるワインレッドのローブを着ていた。
「……それじゃあ、詳しいことを説明させてもらおうかしら。フェリシティの魔力がまだ残っていて、死者の体に入り込み、その生ける屍が群れを成しつつあるっていうところまではいいわね?最初のうちはあちこちに点在している状況だったんだけど、最近は頻繁に集団で行動していてね。死者同士、と言うよりフェリシティの魔力同士呼び合うものがあるのね。 残留魔力には生前の意志が宿るから、操られた死者が人間を襲うのはまず間違いない。ああ、人間だけじゃなく魔族もね。とにかく、彼らは生ける者すべてを破壊対象としているのよ」
 ファビオが頷いた。
「何としても阻止せねばならん。それで、貴方の作戦とは?息子から大まかな話は聞いたのだが」
 ファビオの横でバティスタが眉根を寄せている。魔族嫌いの彼にとっては魔女オーレリーが会議を仕切るということも、それ以前に魔族と同席することすら不本意なのだろう。
「そうね、改めて説明しましょう。地図を見て」
 オーレリーが背後の壁に掛けられた地図を指差した。皆の視線が集る。
「ここが私たちのいるスピネ・エンデの王都ね。そして西のシュバルツァガル、南のアウグスタ。死者たちは群れているとはいえ、その集団が各地に散らばっている状態。残らず倒すには、彼らを一箇所に集めるべきだと思うの。このあたり、中立地帯になっているレニアントの草原がベストだと思うわ。それから総攻撃よ」
「“倒す”というのは?死者を倒すってのはどうやって?」
 アルザが疑問を口にした。オーレリーが手を胸に当てた。
「心臓を突くの」
「心臓を突くのさ」
 黒ずくめの男がクククッと喉の奥で笑いながらオーレリーの言葉を繰り返した。アルザが顔を向けると、帽子の下からギラギラした赤い目が見返してくる。
「心臓というのは命の象徴なの。体の中で一番魔力の集まる場所よ。そこに剣を突き立てる――誤解の無いように言っておくけど、別に剣でなくてもいいのよ?槍でも斧での棒っきれでも。言い換えれば、心臓を突かない限りはいくら斬っても叩いても無駄。魔力には“核”があって、それを壊せばその魔力は土や風や木……つまり万物に溶けていくわ」
「溶けた魔力がまた結合することは?」
「フェリシティは既に死んだわ。残っているのは膨大な数に分断された微かな魔力だけ。この世界には色んな魔力が満ちていて、それが川のように絶えず流れ動いているの。死者から切り離された個々の魔力は非力なものだから、そこに吸い込まれてその流れの一部になるのよ。だから再びフェリシティの魔力が意志を持って結合するなんてありえないわ」

「まずは……死者を追い込むことから」
 オーレリーが思案顔をした。
「三国の端から結界を張って、フェリシティの残留魔力を追い込んでいきましょう。地に堕ちた力を弾くには光の力を使うの。そこで……スティフ=エヴァンジェリンはアウグスタの南東部へ、私はシュバルツァガルのリケリア湖あたりから始めるわ。スピネ・エンデの北端と東の国境付近にあと二、三人必要なんだけど、それは彼が都合してくれる」
 スティフはにこりと笑った。
「昔の知り合いに手紙を出していてね。あとは返事を待つだけなんだ」
 オーレリーがいくぶんか興奮した様子で両手のひらをポンと合わせた。
「そう!そしてあと必要なのは実際に使者を駆逐する戦力なのよ!」
 アルザが片手を挙げた。
「スピネ・エンデは全面協力」
 それに続いてダリュ、ファビオも同意した。
「もちろんシュバルツァガルもだ」
「アウグスタも同じく。共に剣を取ろう」
 オーレリーは満面の笑みを浮かべた。リスのストラディヴァリがワインの入ったグラスを掲げ、かしこまった口調で言った。
「紳士淑女の皆様!我々が手に手を取り合った記念に、今日この日が訪れたことを祝して!」
 ファビオはその様子に朗らかに笑ってグラスを掲げた。
「我らが祖国に」
「成功を願って」
「来るべき平穏の日に」
 皆、口々に言ってグラスを空にした。



BACK     NEXT
MAJESTOXIC TOP



2007.8.27 執筆

久々に更新。間が開いちゃうと今までの流れを思い出さないといけない……
三国のお偉いさんがたと魔族代表が初顔合わせ。最初、あんまり雰囲気はよくなかったんですがなんとなーくなんとなーく良くなってきた感じ。バティスタが魔族大嫌いなので、彼がきっとギスギスの元。
オーレリーは作戦を改めて伝えて。みんなミケーレ戦争時にフェリシティに痛い目見てるので、現状況を打破するのには依存はありません。操られた死者を滅ぼすには心臓を突かないとダメ。じゃないと首を切り落とそうが腕をもごうが彼らは動きます。心臓が最初から無いような死者は操られてません。
次は華やかにパーティー!パーティー大好きです。書きたかったとこ!

Copyright (C) 2006-2009 ZARI All Rights Reserved