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MAJESTOXIC   3・8 グレイ

 パーティーの後、スピネ・エンデ城にはダリュ、グレイ、ユトがまだ残っていた。ファビオや他の要人たちは国へ帰り、それぞれ戦争の準備を始めていた。スティフはサリエルやベリアルを始めとする悪魔たちを連れてアウグスタの最南部へと向かった。一箇所に集中するのではなく、何箇所かに分けて結界を張らなくてはならないからだ。結界を張っている間、アルザはベリアルを呼び出すことができなくなる。無茶はしないように、とスティフは何度もアルザに言った。アルザは曖昧に頷いて返事をした。保証は出来ない。
 同じくオーレリー他数人が各国の端まで出向いていった。残りの者で死者を討伐しなければならない。



 澄み渡った空の下、白刃に反射した光がちらちらと舞う。冷たい空気を切り裂くような鋭い金属音。時おり観衆が息をのむ。時刻はもうじき太陽が真南に昇るころ。スピネ・エンデの訓練場では、軍の副隊長であるジュープと中隊長のトビトが手合わせをしている。ジュープは愛用の槍を振りかざし、トビトは2本の曲刀を操って激しくぶつかり合う。ジュープの槍が空を切る。その隙を狙ってトビトが間合いを詰めれば、槍の柄が目前に迫る。それを曲刀で受け流す。お互いどちらも譲らなかった。
「どうだ!」
 トビトが息をもつかせぬ連続攻撃をしかけた。
「甘い!」
 ジュープもうまく切り返す。二人は長いこと戦っていた。実力はほぼ同じだ。だからこそ激しいぶつかり合いが続き、お互いの力を高め合える。

 鉄が擦れて火花が飛ぶ。お互い渾身の一撃を繰り出し――起こるはずだった衝撃は第三者に阻まれた。槍の刃先と曲刀の間に挟まれた一本の長剣。その剣を手にしているのはグレイ=ノエル。グレイは二人を交互に見やり、水色の目を細めて不敵に言った。
「どうにも暇でしてね。私も混ぜてくれます?」
 ジュープとトビトが楽しそうな笑みを浮かべた。三人は一度武器を引いた。一息ついたと思ったその刹那、弾かれたように攻撃を繰り出す。グレイの鋭い一撃が飛ぶ。ジュープが空を薙(な)ぐ。トビトが鮮やかに舞う。入り乱れての攻防に歓声が沸いた。
「やるな、グレイ=ノエル」
「どうも。あなたも、そっちの方もなかなかのものですよ」
「ありがとうございます!頑張ってますから!」
 ジュープの素直な物言いにグレイが笑った。

 ふと遠くを見ると、ダリュが訓練場の向こうにある通路を歩いていた。グレイは低い声で言った。
「……うちのバカも呼びましょうかね」
「バ、バカって……」
「ダリュ王のことですか?」
「ええ、この前のパーティー以来ずっと落ち込んでいるみたいで。理由は知りませんが。まあ……どうせまた――」
 グレイは手にした剣を無造作に投げた。ひゅんと風を切る音がして、剣がくるくると回転しながらダリュのほうに飛んでいく。ぼうっと歩いていたダリュが顔をこちらに向けた。
「うおっ!?」
 目を見開いたダリュは間一髪のところで剣を避けた。
「ダリュ王もこちらで手合わせしませんか?どうせ暇なんでしょう」
 グレイが淡々と言った。ダリュが壁に刺さった剣を引き抜き、凄まじい剣幕で歩いてくる。集っていた兵士たちは少し身を引いた。
「何すんだこのやろ……」
「ほっつき歩いてるだけじゃ体がなまりますよ。これ以上弱くなってどうするんです」
 ダリュが鋭い目をさらにつり上げ、グレイに剣を投げ返した。グレイはそれを器用に受け止める。
「ほお。誰が弱いって?」
 見るからに機嫌を悪くしたダリュに、ジュープとトビトが冷や汗をかいて顔を見合わせる。グレイが呆れ顔になった。
「あんたですよ。自分が強いとでも?」



「いつもいつも俺にばっか悪態つくんじゃねえよ!」
「私が口を挟めるような隙をつくらなければいいじゃありませんか」
「大体何だって俺を引っ張り出したんだテメエ!訓練の相手ならその辺にいくらでもいるだろうが!」
「腐った目の男見ると虫唾が走りましてねえ。ハルヴィエ様に振られたのがそんなにショックですか!」
「……!何で知ってんだよ!!」
「あら、図星ですか。ちょっとカマかけてみただけなんですけど。あらあらそうですか!でもそろそろ……うじうじするの止めてくれます?いつものことじゃないですか、振られるのも張り倒されるのも!」
 言い争いながら剣を交える二人。周りはそれを遠巻きにして眺めていた。激しい攻防を続けながらもグレイは息を乱さない。ダリュのほうは彼女にあしらわれているようにも見えた。ダリュが弱いのではない。グレイが強すぎた。長剣を横に構え、流れるように戦う。27歳という若さで完璧に洗練された剣技を持っていた。彼女が動くたび、青緑色の長い髪が揺れる。さながら戦場の女神を思わせた。



「グレイさんって、ダリュ王のことちゃんと考えてるんだね」
 観衆に混ざって見物していたジュープが呟いた。トビトが怪訝そうな顔をする。今の2人を見る限り、主君に刃向かっているようにしか見えない。
「発散って言うのかな、体動かして忘れちゃえってことだよ。ダリュ王がいつまでも落ち込まないように」
「そうかあ?俺には小馬鹿にしてるようにしか見えないけどな」
「女同士だと何となく分かるの!グレイさん偉いなあ、そういうこと思ってても口にはしないんだもん。私だったら言っちゃうよ、『心配だから』とか」
「お前は正直なところがいいんだよ」
 ジュープが目を丸くした。
「そう?えへへ……ありがとう!わあ、トビトに慰められちゃった!」
 嬉しそうにジュープが笑う。トビトは照れくさそうにそっぽを向いた。
「ねえトビト、グレイさんってさ」
「ん?」
「セレ隊長の恋人なの?」
「はあ!?」
 真面目な顔でジュープが戦うグレイを見つめている。トビトはぼりぼりと頭を掻いた。
「そんなこともあった。けど、今はどうだか。何年か前には2人で会ってたのを見かけたけどな」
「そうなんだ……隊長ってグレイさんのこと好きだと思う!?」
「さあ〜?」
「そっかあ……」
 そこで言葉はとぎれ、しばしの沈黙が訪れた。
「なっ、なあ、何でそんなこと聞くんだ?隊長が誰を好きだとか……気になるのか?」
「当たり前でしょ、すっごく気になるよ!!」
 トビトは多少ショックを受けてジュープを振り返った。
「その……あの……何で気になるんだ!?」
「ええっ?何でって――だって、ハルヴィエ様と隊長がうまくいってほしいんだもん」
 大きなため息をつき、トビトはその場に座り込んだ。
「そうか……だよな。ハルヴィエ様と隊長が、だよな!そうだよなー!!」
 突然笑い出したトビトにジュープは首を傾げた。



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2008.1.4 執筆

前回の更新からだいぶ間が空いてしまいました(´ω`;)やっと!
スティフ・オーレリー他が結界を張りにいきました。悪魔たちも一緒に。この後操られている死者を3国の中央付近に集めて討伐を。悪魔召喚は魔力が強いほうが優先されるのです。魔力そこそこの人が呼び出してても、その後にもっと魔力強い人が呼んだらそっちのほうに行っちゃう。結構シビアです。だからアルザもベリアルを使えなくなります。スティフが使ってるので。
そして手合わせにグレイが飛び入り。強い人ですグレイ。トビトとジュープ、この2人は爽やか〜に(笑)

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